「この歯は治療(根の治療、根管治療)しても持たないから抜いてインプラントにしましょう」と言われてご相談(セカンドオピニオン)をお受けることがあります。
本当に「抜いてインプラント」が良いのでしょうか?その「答え」を解説したいと思います。
目次
どちらが長持ちするのか?
「インプラント」と「歯の根の治療」はどちらが長持ちするのか?ということを考えると、 結論的には
①「成功率」では根の治療の方が高い
②「生存率では差が無い(同じ)」
となります。
※「生存率」は歯やインプラントが残っている場合を指す。混同しやすいが「成功率」とは違う。
※「成功率」の場合は基準が厳しくなり、「残っている+良い状態」で経過していることを言う。
※米国での調査結果。日本国内の成功率は20~30%程度低下する。
※膿の袋がある場合は根の治療の成功率は20~30%程度低下する。
根管治療(歯の根の治療)をおこない歯を残すメリットと注意点
想定される状況
虫歯が進み、神経まで達してしまった場合や根の先に膿の袋ができてしまった場合。
※膿の袋が大きくても根が割れていない場合は残せる可能性が大きい。
根の治療をおこなうメリット
・ご自身の歯を抜かずに治療できる。
・インプラントと違い外科手術をする必要がない。
根の治療をおこなう場合の注意点
・治療の時点で歯が割れて無いことが条件になります。
(歯科用顕微鏡などで精査が必要な場合があります)
・歯が薄い場合、将来的に歯が割れる可能性は残ります。
(割れにくい土台を入れる場合があります)
あっている方
・歯をなるべく抜きたくない方
・喫煙される方(おタバコを吸われる方はインプラントは禁忌のため)。
・全身疾患(骨粗しょう症、コントロールできていない糖尿病、等)で外科手術ができない方。
治療選択時のヒント
・時間がかかっても良いという方には、根の治療を一度おこない改善するかどうか確認してから、最終判断することも選択肢の一つと考えられます。
・歯を残せる可能性を最大限生かす場合は、
①歯の根の治療をしっかりおこない(歯科用顕微鏡、ラバーダム防湿使用)
↓
②仮歯(プラスチック製)を被せ
↓
③しばらくお使いしていただき(1ヶ月以上)
↓
④膿の袋が小さくなってきた(レントゲンで確認)
など状態が改善してきているようであれば歯を抜かずに差し歯にできると判断いたします。
・歯の厚みや質が一定量残っていることが必要になります(歯が薄い場合は矯正治療で歯を引きあげて、厚い部分を利用できるようにする場合もあります)。
歯を抜いてインプラントをおこなうメリットと注意点
想定される状況
・歯の根が割れている場合。
・虫歯が深すぎる場合(差せる部分が無い場合)。
インプラントのメリット
・差し歯と違い、将来的に歯が割れる可能性は無くなります(インプラントに置き換わるため)。
インプラントの注意点
・歯をお取りすることになります(抜歯)。
・外科手術が必要になります。
・外科手術になりますので全身疾患がある方はできない場合があります。
・健康保険外の治療になり費用がかかります。
あっている方
・硬いものをよく食べる方。
・かみ合わせが強い方。
・以前歯が割れて抜歯になった経験がある方。
・健康状態が良い方。
・おタバコを吸わない方
共通の注意事項があります
・どちらの治療をおこなった場合でも、治療後の定期的な継続管理は必要になります。
・歯やインプラントを支えている部分は、歯ぐき(歯茎)の骨なので歯周病の治療はどちらも必須になります。
まとめ
・文献上では、根管治療、インプラントも生存率は同じ。
・両者のメリット、デメリットを理解した上で選択すると良い。
・個人ごとに状況が違うため治療の選択は実は単純ではない。
・個人的な意見になるが、歯の根の治療、インプラント、両方に精通している先生の判断が同業者からみてバランスがとれていることが多いと感じる。
《参考資料》
Doyle SL,Hodges JS,Pesun IJ,Law AS,Bowles WR.Retrospective cross sectional comparison of initial nonsurgical endodontic treatment and single-tooth implants.J Endod 2006;32(9):822-827