歯周病(歯槽膿漏)は慢性の細菌感染症(バイオフィルム感染症)です。「細菌なら殺菌剤や抗菌薬を使えば殺すことができるのでは?」と考えることも当然の発想だと思います。
歯周病が薬で治れば、理想的な治療といえると思いますが、はたしてそれは正しいのでしょうか?
その疑問の「答え」を解説いたします。
※以下「薬=飲み薬、服用薬」をいいます(薬は他に、洗口剤、ペースト状の注入タイプ、があるため)。
※このコンテンツは以下の文献、資料をもとに歯科医師である大手町デンタルクリニック院長 島倉洋造 がわかりやすくまとめ執筆いたしました。
【参考文献】
歯周治療の指針 2015年 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
歯周病患者における抗菌療法指針 2010年 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
歯周病の検査・診断・治療計画の指針 2008年 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
【参考資料】
ヤン・リンデ名誉教授(スウェーデン・イエテボリ大学)特別講演 2018年
ベルランベル歯周病学教授(スウェーデン・イエテボリ大学)特別講演 2016年
目次
【結論】歯周病が治るとはどういうことをいうのか?
「結論からいえば、歯周病は薬では治りません(残念ですが・・)」
もう少し詳しくいうと、
「歯周病の治療中に薬を一時的に使うことはありますが、それを使えば歯周病が治るという薬は存在しない」
となります。
なぜそのような言い回しになるのでしょうか?
そもそも「歯周病が治る」とは
①薬を使用せずとも
②歯ぐきの痛み、腫れ、出血がなく
③骨の痩せが停止して持続している状態
をいうため、薬を使用しなくても歯ぐきが健康な状態を維持している状態を「治った」といいます。
※痛みや腫れなどの症状が落ち着いている状態は「症状安定(しょうじょうあんてい)」といい、「治った(治癒)」とは区別されます。
よくある誤解
誤解① 「痛みがない=治った」と思いがち
「痛みや腫れがない=治っている」とイメージされる方も多いかと思います。
歯周病は「サイレント・ディジーズ(静かなる病気)」といわれ、痛みや腫れなどの自覚症状が無くても知らないうちに進行(歯を支えている骨が痩せる)する病気です。
したがって、痛みや腫れがなくても、歯茎の骨の痩せが進んでいる場合は「治っていない」ので油断は禁物です。
誤解② 「(例)結核などの治療と同じイメージ」を持っている
具体例をあげると、結核(結核菌が原因)は昔は死に至る怖い病気でしたが、現在は抗菌薬の服用で外部から入った「結核菌」を排除することで「薬を飲んで治す」ことが可能な病気の一つになりました。
歯周病(歯周病菌が原因)も細菌が原因ですが、常在菌といってもともと住んでいた細菌が原因なので、そもそも「0」にはできません。そのため外部から入ってきた結核菌のように「薬を飲んだ⇒歯周病菌ゼロ」には残念ながらなりません。
そのため、歯周病は飲み薬で治る病気ではありません。
なぜ歯周病を薬で治そうとするのか?
歯周病の原因はもちろん細菌ですので、細菌を殺す働きのある抗菌薬を服用すれば一時的に細菌の数が減るからです。
ただ、欠点としては細菌の数は一時的に減りますが「0」にはならないため、なにもしなければ3~4ヶ月程度で元の状態に戻ってしまう点です(分裂して増えるため)。
※抗菌薬:抗生剤、抗生物質、抗菌剤、と同じ意味です。
なぜ歯周病は薬を使用しないで治るというのか?
なぜそうなのか?簡単にいうと
①薬を使用しなくても歯周病の80%は治るため。
そもそも歯周病の8割は「歯周基本治療」といって物理的にプラーク(歯垢、バイオフィルム、細菌の塊)を取り除くことで治ることがわかっているため薬を使用する理由がありません。
②プラーク内部の細菌には抗菌薬は届かないため。
歯周病の原因であるプラークは細菌の塊で、表面にはバリア的な「膜(フィルム)」が存在するために、プラーク内部の細菌には抗菌薬は届かないため効果がありません。
ただし歯茎に腫れや痛みがある場合は(血管がある場所が腫れるので)抗菌薬が届くので効果があります。
※抗菌薬は、血流(血管)がある場所でないと届かない、また唾液中の濃度では低すぎて効果が期待できない。
③細菌(常在菌)は「0」にはできないため。
体の内部(口の中、胃や腸)、表面(皮膚)いたるところにもともと細菌(常在菌)は存在しています。そもそも常在菌が多数を占めるお口の中の細菌を「0」にすることは不可能であり、またその必要もないので一時的に使用する場合はあっても長期間の連用は無駄に終わります。
④抗菌剤の持続効果は3~4ヶ月程度であるため。
一度抗菌薬を飲んでもその効果は数か月程度で、副作用や耐性菌(薬が効かない細菌)を考えると薬を飲み続ける訳にはいかないし、逆に定期的な管理ができていれば飲み続ける必要もなくなります。
※2018年現在、長期的には薬を使用してもしなくても効果に差がなかったということがわかってきています(スウェーデン・イエテボリ大学 ヤン・リンデ名誉教授)。
歯周病治療で薬を使う場面
では、歯周病治療で薬を使う場合はどんな時でしょうか?
①腫れや痛みがある時
腫れやお痛みがあるような時は、体の内部に侵入してきている状態(バイオフィルムになっていない)なので、血流にのって抗菌薬が届くために細菌を殺すことができますので服用します。
②歯石を取る時
健康な方の場合は使用しませんが、歯石などをお取りした場合、歯周病菌が一時的に血管内部に侵入する可能性(菌血症)があるために、抗菌薬を服用する場合があります。
特に、細菌性心内膜炎 大動脈弁膜症、人工弁・シャント術実地患者、動脈硬化症、糖尿病、などの感染しやすい方の場合には抗菌薬を一時的に服用します。
③外科手術をした時
歯周外科手術後の傷口がふさがるまでの間に細菌が入り込まないように抗菌薬を服用します。
④治療後の定期管理の時
定期的な管理中に、疲労蓄積、病気による抵抗力低下時などで歯周病の状態が悪化した時に一時的に抗菌薬の服用することがあります。
⑤どうしても基本的な治療で改善しないタイプの難治性歯周病
難治性の重度歯周病の場合、一時的に抗菌薬を使用する場合がありますが、ただし全体の歯周病の4%程度なので使用頻度は非常に少なくなります。
使用する場合の飲み薬
ペニシリン系抗菌薬(アモキシリン、等)、セフェム系抗菌薬(セファロキシン、等)、マクロライド系抗菌薬(ジスロマック®)、ニトロイミダゾール(メトロニタゾール®、日本では歯科適応外)、テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリン、等)。
まとめ
・薬を飲んで歯周病が治る治療は存在しない。
・治療のある場面で薬は使うことはあるが、良くなっても「歯周病が治った」訳ではない。
・プラーク(歯垢、バイオフィルム)内部の細菌には抗菌薬は効かない。
・薬は(効果は短期的で、耐性菌をつくるため)根本的な治療にならない(治らない)。
・薬を使用 しても or しなくても 長期的にみると効果に差がない。
【参考文献】
歯周治療の指針 2015年 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
歯周病患者における抗菌療法指針 2010年 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
歯周病の検査・診断・治療計画の指針 2008年 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
【参考資料】
ヤン・リンデ名誉教授(スウェーデン・イエテボリ大学)特別講演 2018年
ベルランベル歯周病学教授(スウェーデン・イエテボリ大学)特別講演 2016年
★歯周病 東京 | 公式【大手町デンタルクリニックホームページ】