胃がんや肺がんと同じように、お口の中にも「がん(ガン、癌)」ができます。日本人のがんの全体の5%ですが、ただ油断できないのは①近年増加傾向にあり②口腔内(くち)と咽頭(のど)の領域あわせたがんの死亡率が46.1%である、点です。
初期のうちに適切な処置がおこなわれれば十分に良くなることが見込まれますので、初期段階で発見することが極めて重要です。胃がんなどと違い、直接目で見ることができますので、早期発見が可能ながんになります。
ではどんなふうに見えるのか?その「答え」を解説いたします。
目次
口腔がんとは?
「口腔がん」はお口の中の舌、歯ぐき(歯茎)、粘膜、にできるがん(ガン、癌)になります。40歳をすぎるころからみられるようになり、加齢とともに発生率が高まります。女性よりも男性の方が多く、最近は20歳代の方にもみられることがあります。
代表的なもの(3つ)としては
①舌にできる「舌がん」
口腔内にできるがんの54%は舌(ぜつ、した、)にできます。多くは脇の部分にできます。
②歯肉にできる「歯肉がん」
見つけやすい部分であります。
③舌の下の粘膜にできる「口底がん」
少し見つけずらい場所になります。中央部少し左の「やや赤い」部分になります。
以下その症状を解説いたします。
口腔がんの症状
【症状1】こすってもとれない白い着色
舌の横の部分や頬粘膜(ほっぺの内側部分)に白い着色(通常はピンク色です)があり、ガーゼなどでこすっても取れない場合注意が必要です。
寝てい居る時の歯ぎしり、食いしばりで、噛んだ「痕(あと)」の場合もありますので区別が必要(がんでないので)になります。
【症状2】入れ歯や噛み傷が2週間たっても治らない
入れ歯が合わなくて傷ができたり、粘膜(ほっぺ)を噛んでしまった傷は通常4~5日で落ち着いてきますが、2週間以上たっても治らない場合は、違う原因(がん)の可能がありますので注意が必要になります。
【症状3】歯ぐきや舌に硬いしこりがある
舌の横(脇)の部分や歯肉(歯ぐき、歯茎)に硬いしこり(弾力のある)がある場合注意が必要です。
歯周病(歯槽膿漏)、根尖性歯周炎(根の先の膿の袋)、エプーリス(良性腫瘍)、骨隆起(骨の盛り上がり)などでもできる場合もありますので区別が必要(がんでないため)になります。
【症状4】歯ぐきの表面が赤くただれてていて治らない
歯ぐき(歯肉、歯茎、舌)が赤くただれていてなかなか治らない(2週間以上)、痛みが続く、などある場合も注意が必要です。
アフタ性の口内炎などと区別する必要があります。口内炎であれば長くとも10~14日位でおさまります。
【症状5】大きな口内炎が治らない
直径5㎜以上の大きな口内炎がなかなか治らない(2週間以上)の場合も注意が必要になります。通常の口内炎との区別が必要になります。
口腔がんと間違えやすいものがあります
がんではないが、がんになる可能性がある病気
前がん病変といい、白板症(はくばんしょう)、紅板症(こうばんしょう)、扁平苔癬(へんぺいたいせん)、などがあります。
白板症(はくばんしょう)
お口の粘膜に白い斑状な形のものができる。がんに移行する確率は日本国内では3~16%。50~70歳の男性に多い。
紅板症(こうばんしょう)
お口の粘膜に鮮紅色でビロード状のものができる。がんに移行する確率は40~50%と高い。50~60歳に多い。男女の差はない。
扁平苔癬(へんぺいたいせん)
頬(ほほ)の内側にできやすく、レース状(網状)の白い模様に見える。がんに移行する確率は0~3.5%と低い。50~60歳の女性に多い。
がんではないが間違えやすい病気
がんではないものです。骨隆起(こつりゅうき)、アフタ性口内炎、褥瘡性潰瘍(じょくそうせいかいよう)、などがあります。
予防法は?
禁煙する
アメリカの疾病予防管理センターの調査によって、喫煙は肺がんをはじめ食道がん、胃がん、白血病など多くのがんの発生に関与していることが科学的に証明されています。
タバコの煙に含まれる発がん物質は直接お口の粘膜を刺激するするため、特に口腔がんの発生に喫煙は大きく関与しています。
口腔がんの場合、喫煙によるリスクが25%アップするとの報告があります。
お酒の量に注意する
アルコールが分解された時にできるアセトアルデヒドという成分が発がんに関与するといわれています。もちろん、アルコールは直接粘膜にもさられされます。アルコールの消費が多い国(フランスなど)は口腔がんが多く発生しているデータがあります。
口腔がんの場合、飲酒によりリスクが18%アップするとの報告があります。
緑黄野菜、果物を積極的に摂取する
ビタミンC、βカロチン、リコピン、などの抗酸化物質が有効。ただし、サプリメントでなく自然素材そのものから摂取すること。
βカロチン(自然素材からの)摂取で、口腔がんのリスクが46%少なくなるとの報告があります。
がん検診や定期的にクリニックで診てもらう
稀少がんである「口腔がん」の発症率は10万人に1人(0.001%)と言われていますが、がん検診などの実施より130倍早く発見でき、早期治療ができる可能性があります。
また、「入れ歯のあたり」などの慢性的な刺激や、「お手入れ不足」などのお口の中が不潔であることはリスクの増加になる可能性がありますのできちと診てもらいましょう。
口腔がんは直接目でみることができる病気なので、歯周病や虫歯の継続的な管理などと一緒に、定期的にクリニックに通院、健康管理されることが推奨されます。
目で確認できるため、特別な検査がなくても早期発見がしやすいがんと言えます。
まとめ
・口腔がんは目で見えるため早期発見、早期治療が可能ながんである。
・がんと間違えやすい病気もあるので歯科で区別(鑑別診断)してもらう必要がある。
・喫煙、飲酒は口腔がん発生のリスクとなる。
・緑黄色野菜、果物の積極的な摂取はがんの予防にプラスになる。
・早期発見、早期治療のために歯科医師による「がん検診」は有効。
《参考資料》
臓器別による癌発生数 (2003年度厚生労働省「人口動態統計」)
国別の口腔領域のがんによる死亡者数 (Tanaka S,et al.)
東京歯科大学口腔がんセンター様 パンフレット
日本歯科医師会雑誌11 2018 VOL71 NO.8
咬みあわせの科学 vol.38 no.3 (日本顎咬合学会)